主催:独立行政法人中小企業基盤整備機構
経済産業省の知的資産経営WEEK2011協賛
知的資産経営フォーラム 2011
〜知的資産経営の実践力向上と情報発信のあり方〜
決算書だけで企業価値は判断できない。企業の活力ともいえる知的資産を発信することで、中小企業の魅力は増す。その考え方と具体的な取り組み事例などを紹介する「知的資産経営フォーラム2011 〜知的資産経営の実践力向上と情報発信のあり方」(主催:独立行政法人中小企業基盤整備機構、以下:中小機構)が11月25日、東京・西新宿の新宿住友ホールで開催された。今回で7回目となる経済産業省の知的資産経営WEEK2011が協賛した。開会に先立ち中小機構の広瀬邦明理事は「人材、技術、知的財産、組織力、理念、顧客とのネットワークなど財務諸表に現れない経営視点を把握して、夢を語る想いで自社の情報を発信し、現在の苦境を乗り越えていただきたい」と挨拶した。会場は情熱ある発表が続き、参加者は熱心にメモをとるなど真剣な表情で聞き入っていた。
知的資産経営の深化と企業経営の未来
〜我が国の知的資産経営の発展へ向けての課題〜
高成長企業に共通する知的資産の認識
高成長企業の成功要因は何か。OECDが2010年に行ったスイスの高成長中小企業(SME)の調査結果から説明したい。調査テーマはイノベーション、そのベースには知的資産が使われている。
調査結果を要約すると、「企業成長要因の多面性=企業成長の諸要因は多面的側面を有し、それはあたかもオーケストラの楽器のように経営者という指揮者のもとで一体となってシンフォニーを醸し出す。それゆえ、成長をもたらす最重要要因は経営者であり、経営者による戦略的展望に基づく強力なリーダーシップとその共有だ」となる。SMEでは人的資産としての経営者の力が成長の大きな要因、重要だと認識されている。
個別的な成功要因では、企業特有のノウハウや実践(プロセス・事業モデル)に裏付けられた事業戦略がある。顧客との関係、製品の品質、顧客を満足させるソリューションの開発、マーケティングなどの関係資産や構造資産の活用が成功に大きく関連する。対象企業の経営者はすべて、自社の競争優位性の源泉として知的資産を認識していた。
同様な調査を私は日本で実施。対前年比で20%以上の増収増益企業8社を選び、人的資産、構造資産、関係資産の各項目を聞いた。結果は、スイスでの調査と酷似した。高成長する企業は何かをもつ。これらを見つけ伸ばすことが知的資産経営ではないか。
次にコミュニケーションツールとしての知的資産報告書について。その活用対象は内部的には従業員、外部的には新規開拓顧客や既取引先、協力企業グループなど様々。対象ニーズに合わせて報告書の作り方や伝達の仕方を考え、作成意識を明確化することが必要だ。自社の本当の強さを見つけるのは容易ではないが、最も強いものを中心に第2、第3の強さを出すような知的資産報告書を作って欲しい。
今後の動きでは、統合レポーティングがある。財務情報と非財務情報を統合させようというもので、知的資産経営報告書と大きな違いはないが、キャッシュフローとの結びつきを意識しているところが異なる。統合レポーティングは中堅企業以上が対象。大企業の新しいアニュアルレポートとして検討されている。
最後に、12月17日に日本知的資産経営学会を設立する。多様な分野の人を結集して、これまで解決できなかった課題へ対応していく。実践と学問を結びつけながら、知的資産経営についての研究を日本で進化させていきたい。
同志社大学商学部特別客員教授
神戸大学名誉教授
古賀 智敏氏
中小企業において活きる知的資産経営報告書とは何か
〜経営・情報の質と業績・外部評価をどうマネジメントするか〜
大阪市立大学商学部 准教授
宮川 壽夫 氏
知的資産経営報告書を作ることが目的ではない
活用効果を高めるには開示対象と目的を明確に
宮川 中小企業が知的資産に対し積極的な情報開示をしながらマネジメントしていく意義、目的と評価について議論する。経営者にとって自社の魅力や強みを改めて考えてみることは、とても大事なことであると思う。自社の儲かる仕組みとは何か。実際には論理的に説明できる戦略があるはずだが、経営者は往々にして振り返ることなく走り続けている。知的資産経営報告書の作成はそれを見つめ直すきっかけになると同時に、多様な面で活用可能なツールだと思われる。このあたりのことを伺っていきたい。
船橋 政府においては、資源の乏しい日本において知恵こそが生きる道であるとして、特に2000年ごろから知的財産に着目した政策を打ち出してきた。ただ企業は知的財産として定義される特許や商標等にとどまらず、様々な知恵を結晶化させており、これらを企業のより広い意味での強み、すなわち知的資産として生かすための政策を進めている。
企業は1つのチームであり、そのパフォーマンスを上げるためには社内で目的を共有化することが大事。また、金融機関は短期的なキャッシュフローの予測に依存しすぎず、企業の中長期的な成長に向けた経営方針を評価していかなければならない。その裏付けや有効なツールとなるのが知的資産であり、知的資産経営報告書である。
松本 知的資産経営報告書はコミュニケーションとマネジメントのツールとして発展してきた。知的資産経営は、知的資産経営報告書を作ること自体が目的ではない。自社の知的資産や知的資産経営に企業の内外で気づいていただくことも大きな目的だ。それには見える化、魅せる化が必要。やってみると、結構ハードルが高いところもある。そのためワンシートで報告書が作れる「事業価値を高める経営レポート」(中小機構編)が生まれた。現在、中小機構では今年度中に完成させる予定でマニュアルの改訂を進めている。大切なことは、伝える対象、何のために使うか。これらが明確になると、より活用効果の高い報告書ができる。
池田 札幌で病院施設にリネンサプライ、介護・福祉用具等の企画、製造、販売を行う。障害者を雇用する中で社会福祉法人も設立。主に若年求職者に向けた「魅力発信レポート」を2009年に2カ月かけ作成したが、知的資産経営の言葉すら知らなかった。作成では支援者の山中氏に現状と夢を語っただけ。もっと社員を巻き込めば気づかなかった魅力がさらに出せたはず。作成後、世界的規模で活動する日本自動車研究所からの申し入れで緩衝材が入った帽子を共同開発。自動車乗員の安全性能確認試験と同じ人体ダミーを用いて頭部保護性能を評価できた。振り返ると、これまでできあがってきた人脈やネットワークはすべてが知的資産ではないかと感じる。
山中 特殊衣料の魅力発信レポート作成を支援した。池田氏から多岐にわたる事業内容と数々の感動的な話を聞き、どうやって正確かつ魅力的にまとめようかと戸惑ったのも事実。様々な話の因果関係を分析しながら、各事業がどういう風に成長し、どのような相乗効果を生み出しているのか、どういう外部協力者いわゆる関係資産があるのか、外部協力者を惹きつける魅力は何なのか等々を書いた。
魅力発信レポートの作成支援を通じて思ったことは、コンサルティング業務同様、ヒアリングが大事ということ。経営者は答えをもっているはず。だが、もやっとしてよく把握していないことはよくある。支援者の役割は、経営者との対話を通じ、ポイントとなるキーワードを引き出し、整理し、分析し、ソリューションに至る、そういったプロセスの手伝いである。
積 大阪で子供服を中心に衣料品の製造から直接販売までを手掛けている。ブランドやファッション性にはピークがあり、その期間にいかに大量出店し、大量に売上げ、利益に変えていくかが大事。そのあり方を振り返ってみようと思い、知的資産経営報告書を作成。作業自体は2、3週間ぐらい。開示後に商社から資本参加があった。
元々、知的資産は目に見えない資産、オフバランス資産として着眼していた。見えないものの数値化は重要。強いとすれば何が強いのか、いかほどの価値なのか。それらを把握することで何に力を入れるべきかを考えていくには、知的資産のポートフォリオのようなものが必要だと感じている。
前田 コージィコーポレーションの知的資産経営報告書作成を支援した。税理士は企業と向き合うと数字に終始してしまうが、その背景にあることはわからない。その疑問から財務と非財務が連動することの重要性を感じていた。決算書と知的資産経営報告書があれば、中小企業の過去と現在、未来がわかる。作成した企業は、作成してよかったと異口同音に言う。支援者の立場から知的資産を語ると、それは気づいてもらうこと。そして棚卸をしてもらい、その次に誰に見せるのか目的をもつこと、と考えている。私のなかでは目的が最初ではない。報告書を作ること自体にも意義があると思う。
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特殊衣料 代表取締役社長
池田 啓子氏 -
中小企業診断士
山中 文雄氏 -
コージィコーポレーション
専務取締役
積 高之氏 -
テントゥーワン税理士法人
代表社員・税理士
前田 直樹氏 -
経済産業省
知的財産政策室課長補佐
船橋 憲氏 -
帝国データバンク
産業調査部チーフリーダー
松本 誠一氏
トップ企業の経営者に聞く
企業理念や活動を整理し、情報発信する意義とは
〜企業に内在する暗黙知を活用して勝利する経営〜
東海バネ工業
代表取締役社長
渡辺 良機氏
勝負する市場は、非価格競争領域
私は当社を説明する決まり文句としてこう言う。「言い値でこうてもらっておるバネ屋ですねん」。どうしたら言い値で売れるのか、全社員が一丸となって日々考え続けている。
当社はオーダーメイドばねで勝負している。ばね業界の顧客は、自動車、家電、弱電、情報通信の4業種で85%を占める。通常、顧客は見込みで発注し、数をまとめて買う。メーカーにとってはありがたいことだが、当社へは真逆の発注しかこない。必要なときだけの発注で、必要な分しか買っていただけない。平均で注文数は5、6個、金額で5万円程度だ。
だが材料は特殊鋼メーカーへトン単位で発注する。材料発注から納品まで数か月から1年かかる。つまり大量の材料在庫が発生する。1944年に創立以来、12月末で69期、一度も赤字はないが、当社はキャッシュフロー経営など夢のまた夢だ。
26歳、1971年ごろに後継者含みで入社したが、まず当社の経営状況をポジティブな発想に変えることが必要だった。マイナスと思われる内容を逆に特徴にしていけばいいのだ。どこにも負けないぐらいの材料を抱えていこう。それと新たな顧客と出会うにはIT活用が効果的と思い、インターネットでの注文受付けも始めた。
私どもが勝負する市場は、非価格競争領域。だから言い値で買っていただける。
他のメーカーが真似できないことは何か。少ない数だけに、試作品なしに一発勝負で作ること。リスクを恐れないモノづくりができる点である。昨年は900社から3万件注文があった。クレーム発生率は0.1%を切っている。リスクに挑戦ができるのは、職人たちの暗黙知があるから。バネは、図面上はどんな形も書ける。でもそれを本物のバネにするためには、図面だけでは表せない暗黙知、職人一人ひとりの腕やハートに叩き込まれた暗黙知が必要。これがあるから非価格競争が付加価値競争に勝てる。
有形資産は減るが、無形資産は減らない。逆に使うほど大きく、広く、深くなる、これが東海バネ工業の大きな財産、資産なのである。今では日本中から単品注文を集めたろう、足りなかったら世界中から集めたろうと思っている。
具体的ケーススタディ
事業価値を高める経営レポートの活用事例
一般財団法人
知的資産活用センター理事
事務局長
吉栖 康浩氏
経営レポート作成マニュアルの改定の背景
吉栖 日本では現在、1000件ほどの知的資産経営報告書に類するレポートが公開されていると言われる。知的資産経営の普及と深化へ向け、もっと増やそうとの認識のもと、簡易版や導入版を志向する動きがある。中小機構が2008年に策定した「事業価値を高める経営レポート(知的資産経営報告書)作成マニュアル」もその1つだ。さらに実用的で、企業が取り組みやすいものにするため、改訂に向けた検討作業が現在進められている。活用事例を挙げつつ、改訂の背景や狙いを説明したい。
松本 改訂の背景には2つの課題があった。1つは、取り組む事業者と支援者に地域格差があること。とくに関西に偏重している。全国の支援者を集めて調査や討議を通じて、先行する支援者のノウハウを共有し広めて行くことが求められている。
2つ目は大きな問題。私は知的資産経営報告書は目的を定めて作らないと意味がないのではと考えているが、現状は作ることが目的化する傾向にあることだ。そこで過去の開示例を分析して、主に使われる6つの作成目的を挙げ、それぞれに適した作成作業のお手本とすべく、新たな記入シートやマニュアルづくりが現在進められている。なお、目的は報告書を作る前に明確化しておく必要があるが、作業を進める段階でこれにも使えると気づき、目的が後で増えていくことはよいと思う。
吉栖 その6つの作成目的が「創業・ベンチャー」「リレーションシップバンキング」「事業承継」「知的財産」「マーケティング」「人材育成」。では一番多く使われるという「事業承継」を目的とした報告書作成の事例を前田氏から説明を。
前田 知的資産経営報告書でも、事業価値を高める経営レポートにおいても、重要なのは一貫したストーリー。この事業承継の事例では改訂版で検討中の記入フォーマットを使用しているが、段階を追って考え方を書き込むことでストーリー性が出せるよう工夫をしている。
まず内部環境、外部環境を考え将来どうあるべきかを考える。そのために知的資産の強みをどう活かすのかを展開。そして現経営者が考える知的資産と後継者が考える知的資産の認識を抜き出し、対峙させる。両者の違いを見つけ出しながら、どう事業承継していくのか、その方針を集約していく。このように項目を埋めていくと、結果としてストーリーが出来上がる。
使用したのは奈良県にある日本酒製造の老舗、梅乃宿の例。リキュール、海外市場への展開で急成長する企業を5代目社長となる後継者へと引き継ぐ事例である。同社へは簡単に書き方を説明して、白紙のフォーマットを渡した。80%は同社だけで記入できており、企業自らが書くという視点が生かされるのもこの改訂版の特徴である。
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帝国データバンク
産業調査部チーフリーダー
松本 誠一氏 -
テントゥーワン税理士法人
代表社員・税理士
前田 直樹氏
事業価値を高める経営レポート 事業承継を目的とした記入フォーマットのイメージ
(注)この図は、現在検討中のシートを一部加工したもの

